脚本 デイヴィッド・ヘア、翻訳 浦辺千鶴、演出 小川絵梨子『スカイライト』2018年12月1日~24日、新国立劇場小劇場。
イギリスを代表する現代左翼作家デイヴィッド・ヘアの1995年初演作品である。つまり、20年以上前、サッチャー政権は終わったものの、なおメイジャー首相の保守党政権下で、新自由主義的価値観がすっかり定着していたかのようにみえていた時代が背景となっている。
かつて不倫関係にあって別れていた男女が、しばらくたって再会した一夜の会話劇。男は労働者階級出身でありながらレストラン経営に成功して成り上がり新自由主義を信奉している。女は中産階級の出身でありながら、リベラルで連帯を基盤にするコミュニティに信を置いて貧困地区の教員をしている。
お互いの痛いところをぶつけ合う会話劇は見事で、それぞれの価値観の歪や困難、それそのものだけではもはや行き所が見えないものであることがさらけ出されていく。それでも、それぞれ、それぞれの価値観を生きる道を選択する。むろん、デイヴィッド・ヘアのスタンスは男に批判的で、女に共感的である。しかし、女の未来が明るいものでもないことはだれの目にも明らかである。ヘアの対立構図が今の社会の抱える問題を描く構図としてはたしてなお有効なものなのかどうかは別途問われなければなるまい。
蒼井優は、社会派の現代劇を演じるときに最もその才能を開かせることができているようにみえる。2015年11月に世田谷のシアター・トラムで上演された『スポケーンの左手』(アイルランド系イギリス人劇作家マーティン・マクドナー作品)でも蒼井は社会からのはみだし女を好演していた。そのときの上演も小川絵梨子が演出、そればかりか戯曲の翻訳も小川が担っている。とすると、蒼井が光るのは、小川絵梨子の演出のなせるわざなのかもしれない。
(2018年12月6日観劇)